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甲府地方裁判所 昭和29年(ワ)83号 判決

原告 武田竹子

被告 東京生命保険相互会社

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は被告会社は原告に対し金五拾万円及び之に対する昭和二十八年十二月十三日以降完済に至る迄年六分の金員の支払をせよ、訴訟費用は原告会社の負担とするとの判決並びに担保を条件とする仮執行宣言を求める旨申立てその請求原因として原告の亡夫武田源文は昭和二十七年七月三十日被告会社との間に保険金五拾万円被保険者武田源文(訴状に原告とあるは明白な誤記と認められる)保険金受取人同人但し同人死亡の場合は原告、保険料一ケ年につき金弐万五百五拾円、保険料払込期日毎年七月三十日、保険証券番号新第一七五八七号なる生命保険契約を締結し、同日第一回保険料の支払をした。そして昭和二十八年七月三十日に支払うべき第二回保険料の支払を遅延しているうち同年十二月七日右源文は交通事故により負傷し加療の為東八代郡石和町峡東病院に入院するに至つた。しかるところ被告会社山梨県第一支部社員は源文の病床を訪問し被告会社の保険約款所定の延滞保険料及び利息を免除するにより第二回の保険料を払込むべき旨を勧告したので源文は同月八日右第二回の保険料として金弐万五百五拾円を支払い保険料領収証の交付を受けた。ところが同月十二日午前三時三十分源文は病勢急変して死亡するに至つた。そこで保険金受取人である原告は保険金受領の為甲府支社を通じ被告会社に対し生命保険証書第二回保険料受領証その他必要書類の提出をしたが被告会社は保険金の支払に応じないから右保険金五拾万円及び之に対する源文死亡の日の翌日である同月十三日以降完済迄商事法定利率年六分の割合に依る遅延損害金の支払を求めると陳述し被告会社の主張に対し被告会社の精算配当附新種養老保険普通保険約款にその主張のような文言があるとしても亡源文及び原告は右約款を精読しその内容を認識の上本件保険契約を締結したものでないから右不動文字は一種の例文に過ぎず源文及び原告を拘束するものではない。仮に右約款が当事者合意のうえ契約の内容とされたものとしても亡源文は被告会社山梨県第一支部社員依田七五三吉の勧めにより前述のとおり第二回の保険料を被告会社甲府支社に支払い仮領収証の交付を受けたものであつて同時に之亦猶予期間が経過していた別口の被保険者を原告とする満期養老保険新第一七五八八号についても同様の方法により第二回保険料の支払をした。被告会社は右二口の保険料を異議なく領収し、且つ別口第一七五八八号保険契約については現にその継続を認めている。しかも原告は源文死亡の事実を被告会社甲府支社に申告したところ同支社においては本社より保険金を支払うべきにより所定の手続をせよとのことであつたので原告は請求書、生命保険証書第二回保険料領収証等必要書類を一括して同支社を通して被告会社に提出したのである。以上の経過により源文は被告会社に対して第二回の保険料を支払い被告会社は異議なく之を受領したのであるから保険金受取人である原告は当然保険金請求の権利を有するものである。仮に被告会社主張のように保険契約の復活を必要とする場合であるとしても被保険者において復活の申出を為し且つ保険料の支払を為せば別に承諾を要せずして原始保険契約はその効力を生ずるのであるから本件契約は昭和二十八年十二月八日を以て効力を復活し被告会社は保険金支払の義務を負うことは当然であると陳述した。<立証省略>

被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め答弁として昭和二十七年七月三十日原告の亡夫源文が被告会社との間に原告主張のような内容の保険契約を締結し、同日第一回の保険料を支払つたこと、同人が昭和二十八年七月三十日に支払うべき第二回保険料の支払を遅延しているうち同年十二月七日交通事故による負傷の為病院に入院したこと、同人が同月八日金弐万五百五拾円を被告会社に交付したこと並びに同人は同月十二日午前三時三十分頃病勢急変して死亡し原告より保険金受領の為第二回保険料受領証を除き保険証券その他の書類が甲府支社を通じ被告会社に提出せられたことは何れも認めるが被告会社外務員と源文との談話の内容は不知その余の原告主張事実は総て否認する。前掲保険契約の際その契約の内容として承認された被告会社の精算配当附新種養老保険普通保険約款第三条第二項によれば保険料が払込まれないまゝで猶予期間が過ぎると保険契約は失効する旨定められている。被告会社は昭和二十八年九月頃源文に対しはがきを以て払込猶予期限が切迫したことを通知した。しかるに同人は猶予期限である同年九月三十日迄に第二回の保険料を支払はなかつたから右約款の規定により本件の保険契約は同年十月一日を以て効力を失つた。そこで被告会社は同年十一月頃はがきを以て源文に対し契約が失効したことを通知するとともに同約款の定めに従い契約復活請求手続をとるよう申出をした。その後源文は被告会社に対し契約の復活を請求したが契約は復活しなかつたものである。即ち前掲約款第七条第一項によれば「第三条第二項によつて保険契約が効力を失つた後二年以内は保険契約者は契約の復活を請求することができる云々」とあり同条第二項には「前項の場合会社が保険契約の復活を承諾したときは延滞保険料とこれに対し日歩一銭七厘の割合で計算した利息とを会社の指定した日迄に払込んで下さい」とあり又同条第三項によつて準用される第一条によれば「会社は保険契約の申込を承諾して第一回の保険料(第二回後の保険料)を受取つたときから保険契約上の責任を負う」とある。以上の約款を要約すれば保険契約の復活は(イ)契約者の復活請求(ロ)保険会社の承諾(ハ)契約者の保険料支払の三要件が備つた場合に成立することとなる。しかるに源文は昭和二十八年十二月八日被告会社外務員に対し第二回保険料充当金を交付し翌九日被告会社に対し復活請求をしたのみで同月十二日死亡したのである。被告会社は右復活請求に関する書類を審査したうえ同年十二月十五日これを形式上承諾している。しかしながら右被告会社の承諾当時既に源文は死亡していたのであるから保険契約はその目的である被保険者を失い後発的不能を目的とする契約として右承諾は無効であるといわなければならない。仮りに百歩を譲つて本件保険契約が復活したものとしても同右復活は無効である。けだし前掲約款第七条第三項によつて準用される第十七条には「保険契約について保険契約者又は被保険者に詐欺の行為があつた場合には保険契約を無効とし既に払込んだ保険料は払戻しません」と規定してある。しかるところ源文は本件契約の復活を請求するに当り「失効後被保険者が病気にかゝり若くは負傷したことがありますか」との告知欄に「なし」と記載し又恰も契約失効前の昭和二十八年九月二十七日に第二回保険料を支払つた如き詐術を弄している。右は明らかに真実に反するものであつて源文の右復活請求は詐欺行為に基くものと断定せざるを得ないから同約款に従いその契約復活は無効である、と述べた。<立証省略>

三、理  由

原告の亡夫源文が昭和二十七年七月三十日被告会社との間に原告主張のような内容の生命保険契約を締結し第一回の保険料を支払つたこと、右源文が昭和二十八年七月三十日に支払うべき第二回保険料の支払を遅延しているうち同年十二月七日交通事故により負傷し病院に入院したこと、同月八日同人が被告会社に対し金弐万五百五拾円を交付したこと並びに源文は同月十二日午前三時三十分頃病勢急変して死亡し保険金受取人である原告より第二回保険料受領証を除き保険金受領に必要な書類を甲府支社を通じ被告会社に提出したことは何れも本件当事者間に争のない事実である。

被告は被告会社の精算配当附新種養老保険普通保険約款第三条第二項により原告主張の保険契約は失効したと主張し原告は右約款は例文に過ぎず被保険者源文はその内容を認識していなかつたものとしてその効力を争うので先づ此の点について判断する。思うに普通保険約款は保険契約の定型的内容を表示するものであつて保険業者が保険業法の規定に従い営業免許の条件としてその届出を必要としこれが変更についても主務官庁の認可を要するものである。従てこのような国家の監督的作用に依り右約款はその合理性を保証せられることとなり合理的な保険契約の内容として保険関係者よりなる或種の団体内部における法規的性格を持つに至るのであつて、保険契約者において特に約款の個々的内容を意欲することを俟たずして保険契約の締結と同時に保険関係者は之に拘束せられるものと解すべきである。それ故に保険契約者は契約締結の際に約款の規定の全部又は一部を知らなかつたことを以て右約款の拘束を免れることはできない。本件において之をみるに成立に争のない乙第二号証証人別所勝三の供述並びにその供述に依て成立を認める乙第一号証に依ると、被告会社には精算配当附新種養老保険普通保険約款が存在し保険契約の勧誘に際しては外務員は右約款を携帯して契約の申込者に対しその要領を説明するのを常態としており亡武田源文は右約款を承知して契約の申込をしている事実が認められるのでむしろ源文は右約款の存在を認識し之に依ることを明示して契約の申込を為したものと認定するに十分である。而して同約款第三条には第二回以後の保険料払込についてはその払込期日から二ケ月の猶予期間があり保険料が払込まれないまゝ右猶予期間が過ぎると保険契約は効力を失う旨定められていることが認められる。それならば亡武田源文が昭和二十八年七月三十日に支払うべき第二回保険料の支払を同年十二月八日迄遅延していたことは前認定のとおりであるから、同人と被告会社間の前掲保険契約は右約款の規定に依り同年十月一日を以て効力を失つたものといわなければならない。

次に原告は亡源文は昭和二十八年十二月八日被告会社に対し第二回保険料として金二万五百五十円を支払い被告会社は異議なく之を受領しているのであるから保険金支払の義務があると主張するのでこの点について判断するに被告会社が日時の点を除き右金員の交付を受けたことは前に認定のとおりであるけれども被告会社が之を第二回の保険料として異議なく受領したという事実を認め得る証拠はない。むしろ証人武田源秀、同中村智氏、同依田七五三吉、同高橋文雄、原告本人の各供述並びに依田証人の供述に依て成立を認める乙第四号証を綜合すると、被告会社甲府支社の外務員である訴外依田七五三吉は同年十二月八日交通事故に依る負傷の為入院中の源文を訪れ同人の父親及び原告に対し既に保険料払込の猶予期間が経過している本件保険契約の第二回保険料を払込み右契約を継続すべきことを勧めたので、源文の父親及び原告は右勧めに従いその手続一切を同人に依頼し即日第二回の保険料に該当する金弐万五百五拾円を交付したものであること、並びに右依頼を受けた依田七五三吉は被告会社の普通約款の定めるところに従い契約復活の手続を為すべく保険契約復活請求書に源文の押印を受け右契約復活後に支払はれるべき第二回保険料充当金として前掲金員を受領し、該請求書を被告会社本社に送付すると共に右充当金を被告会社甲府支社に交付したものであることが認められる。もつとも右依田証人の供述に依ると依田七五三吉はその子依田銀治名義を以て被告会社の代理店をも経営しており、右金員受領の際その手許に在つた被告会社が成規の期間内に保険料の払込が為された場合に発行すべき保険料領収証を源文宛交付している事実は之を認めることができるけれども前掲乙第一号証並びに証人別所勝三の供述に依ると被告会社の普通保険約款に依れば後に詳述するように既に失効した契約は被告会社の承諾ある場合においてのみ復活することができるのであつて右承諾の権限は本社が専有し外務員若は代理店はこれを有しないことが認められるから右のように依田七五三吉において被告会社成規の保険料領収証を交付したということだけでは被告会社が異議なく第二回保険料を受領したものとなす証左たり得ない。

そこで契約復活の成否について審及するのに前掲乙第一号証に依ると被告会社の普通保険約款には保険契約の復活と題しその第七条は約款第三条第二項に依り保険契約が効力を失つた後二年以内は保険契約者は契約の復活を請求することができる。この場合には被保険者の健康状態に異常のないことを証明するに足る書類の提出を要し(但し失効後三ケ月以内は被保険者の誓約書を以て代用することができる)会社が復活を承諾したときは延滞保険料及び之に対する日歩二銭七厘の割合による利息を会社の指定する日迄に払込むものと定めていることが認められる。普通保険約款にこの種の定めを為すのは保険契約者、被保険者に対し簡易に保険の利益に浴せしめんとする便宜的な理由に基くものであるがその法律上の性質は従前の保険契約の効力を存続せしめることを目的とする契約であると解するのが相当である。前掲約款の趣旨も亦右と同一性質のものであることはその文言よりみて明白である。それならば右契約は復活の請求に対し必しも明示たることを要しないが被告会社の承諾があつて始めて成立し復活の効果を生ずるのであつて原告主張のように所定の手続を経て復活の請求をすればその契約者の一方的行為に因り被告会社の承諾を俟たずして当然に契約は復活するものと解すべきではない。しかるところ原告の亡夫源文が昭和二十八年十二月八日訴外依田七五三吉に依頼して被告会社に対し復活請求書を送付したこと並びに右源文が同年同月十二日午前三時三十分頃死亡したことは何れも前認定のとおりであつて前掲乙第四号証成立に争のない甲第三号証の二並びに証人別所勝三の供述に依ると右復活請求書は同年十二月十四日被告会社本社に到達し被告会社においては翌十五日之を承諾しさきに払込まれた保険料充当金を第二回の保険料に振替えたが源文死亡の事実を知り後に之を原告宛返戻している事実が認められ他に反対の証拠はないから亡源文は復活契約の申込を発しその到達前に死亡し被告会社の承諾は同人の死亡後に為されたこととなる。而して生命保険契約においては生存、死亡、混合何れの保険たるとを問はず原則として特定の被保険者の生存することをその成立要件とするものと解すべく商法第六百八十三条、第六百四十二条の適用上例外として保険契約者が第三者である被保険者の死亡を知らずして契約を締結した場合においてのみその契約は有効とせられるに過ぎない。もとより復活契約は従前の契約と全然独立の新らたな契約ではないにしても、一たん失効した従前の保険契約の効力を存続せしめ保険契約者、被保険者に対し保険上の利益を与ふることを目的とするものであるから保険契約の場合と同様被保険者の生存することを成立要件とするものと解するのが相当である。してみれば亡源文の申込自体は民法第九十七条第二項によりその効力に妨がないけれども被告会社の承諾当時既に同人は死亡していたのであるから前掲理論に従い契約の要素である被保険者を欠き該復活契約は成立しなかつたものと断定するの外はない。はたしてそれならば亡源文と被告会社との本件保険契約は昭和二十八年十月一日を以て効力を失つており契約の復活はないのであるから右契約の存続を前提とする原告の主張はその理由がない。

仍て他の点につき判断する迄もなく原告の本件請求を失当として之を排斥することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

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